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第5章 TBMの実践的活用:データから洞察、そしてアクションへ

TBMは、ITコストと価値に関する「共通言語」を提供し、データに基づいた意思決定を支援するフレームワークです。第2章で学んだ「分類法」と第3章の「モデル」によって収集・整理されたデータを活用することで、組織は具体的なビジネス価値を創出できます。

この章では、TBMの実践的な活用方法を、以下の 4つの規律(活動領域) に沿って解説します。

  1. 可視化 (Create Transparency):
    • ITコスト、リソース、サービスの利用状況などを正確に把握し、透明性を確保します。これは他のすべての規律の基盤となります。 まず現状を正しく理解しなければ、適切な予算策定、コスト最適化、ビジネス部門との建設的な対話は成り立ちません。
  2. 予算と統制 (Plan and Govern):
    • 可視化されたデータに基づき、より精度の高いIT予算を策定し、実績を管理します。また、IT投資に関するガバナンスを強化します。
  3. コスト最適化 (Deliver Value for Money):
    • 可視化と分析を通じて無駄なコストを発見し、削減します。また、費用対効果の高いIT投資を促進します。
  4. 関係性改善 (Shape Business Demand):
    • 可視化されたデータを共通言語として、IT部門とビジネス部門間のコミュニケーションを円滑にし、相互理解と信頼関係を深めます。

以降の節では、これらの規律を実践するための具体的な活用アプローチ(レポート設計、分析手法、意思決定支援など)を詳しく見ていきます。

5.1 可視化:ステークホルダー別レポートとダッシュボード設計

TBMの価値を最大限に引き出すには、収集・分析した情報を、適切な相手に、理解しやすい形で提示することが不可欠です。これは 「可視化」 規律の中核となる活動です。役割や関心事が異なるステークホルダーごとに、最適化されたレポートやダッシュボードを設計します。

ステークホルダー別ニーズとレポート例:

ステークホルダー 主な関心事 レポート/ダッシュボード例
経営層 (CEO, CFO) IT投資全体のROI、ビジネス戦略との整合性、主要なコストドライバー、業界比較 ITコスト総額推移、ビジネスユニット別コスト、主要サービスTCO、IT投資ポートフォリオサマリ、KPIダッシュボード(対予算比、コスト削減効果など)、ベンチマーク比較
ITリーダー (CIO, IT部長) IT部門全体のコスト効率、サービス品質とコストのバランス、リソース配分の最適化 ITタワー別コスト分析、サービス別TCO詳細、アプリケーション別TCO、インフラ利用率、プロジェクト別コスト実績、運用メトリクス(障害件数、解決時間など)
ビジネス部門リーダー 自分たちの部門が利用するITサービスのコスト、サービスレベル、新規要望への対応 部門別ITコスト明細(ショーバックレポート)、利用サービス一覧と単価、サービスレベル実績、プロジェクト進捗報告
サービスオーナー 担当サービスのTCO、コスト構成要素、利用状況、収益性(該当する場合) サービスTCOドリルダウン分析、コストドライバー分析、利用量推移、サービス収支レポート
財務部門 IT予算実績管理、コスト配賦の妥当性、減価償却管理、請求処理 予算対実績レポート、配賦計算プロセス検証レポート、資産台帳連携レポート
インフラ/運用担当者 担当領域(サーバー、ネットワーク等)のコスト、利用率、キャパシティプランニング サーバー/ストレージ/ネットワーク利用率レポート、ハードウェア/ソフトウェア保守期限リスト、キャパシティ予測レポート

効果的なレポート/ダッシュボード設計のポイント:

  • 目的の明確化: そのレポートで何を伝えたいのか、受け手にどのようなアクションを期待するのかを明確にする。
  • 情報の絞り込み: 全ての情報を詰め込むのではなく、受け手の関心事に合わせた重要な情報に絞り込む。
  • 視覚的な分かりやすさ: グラフやチャートを効果的に活用し、直感的に理解できるように工夫する。色使いやレイアウトにも配慮する。
  • ドリルダウン機能: サマリー情報から詳細情報へと掘り下げて分析できる機能を提供する。
  • コンテキストの提供: 単なる数値だけでなく、比較対象(予算、前年同期、目標値など)や傾向、背景情報を示すことで、数値の意味合いを理解しやすくする。
  • 一貫性のある定義: 使用する用語や指標の定義を統一し、誤解を防ぐ。
  • アクセス容易性: 関係者が必要な時に容易に情報にアクセスできる環境(ポータルサイト、BIツールなど)を提供する。

レポートは作成して終わりではなく、定期的にレビューし、受け手のフィードバックを元に改善していくことが重要です。

5.2 分析:コスト最適化機会の特定方法

TBMによって 「可視化」 されたデータは、 「コスト最適化」 の機会を発見するための宝の山です。様々な角度からデータを分析することで、具体的なアクションに繋がる洞察を得ることができます。

主な分析手法と着眼点:

分析手法/着眼点 説明 特定できる可能性のある機会例
サービスTCO分析 各テクノロジーサービスの総コスト(TCO)を比較・分析する。 高コストなサービス、類似機能でコスト差が大きいサービス、利用頻度の低い高コストサービス。
コストドライバー分析 特定のサービスやITタワーのコストを構成する主要な要因(ドライバー)を特定し、その変動要因を分析する。 人件費比率が高い、特定のソフトウェアライセンス費が大きい、特定のハードウェア保守費が高い。
ITタワー別コスト分析 サーバー、ストレージ、ネットワークなど、ITタワーごとのコスト構造と推移を分析する。 特定のタワーのコストが突出して高い、コストが増加傾向にあるタワー。
アプリケーションポートフォリオ分析 アプリケーションごとのTCO、利用状況、ビジネス価値、技術的健全性などを評価し、ポートフォリオ全体を最適化する。 利用されていない(または価値の低い)高コストなアプリケーション、重複機能を持つアプリケーション、保守切れ間近のアプリケーション。
インフラ利用率分析 サーバーCPU、メモリ、ストレージ、ネットワークなどの利用率データを分析する。 低利用率のサーバー(統合・仮想化の候補)、過剰なストレージ容量、ピーク時以外のネットワーク帯域余剰。
ライセンス最適化分析 ソフトウェアライセンスの保有数と実際の利用状況を比較分析する。 未使用ライセンス、利用頻度の低い高額ライセンス、より安価なライセンス体系への移行可能性。
アウトソーシング/インソーシング分析 特定のサービスや機能を内製する場合と外部委託する場合のコストとメリット・デメリットを比較分析する。 アウトソーシングによるコスト削減可能性、インソーシングによる品質向上や柔軟性確保の可能性。
クラウド移行分析 オンプレミスのシステムをクラウドに移行した場合のコスト影響(TCO比較)やメリットを評価する。 クラウド移行によるインフラコスト削減、運用効率向上、スケーラビリティ確保。
プロセス効率分析 ヘルプデスクのコール数や解決時間、システム開発のリードタイムなど、IT運用プロセスの効率性に関するデータを分析する。 特定の問い合わせが多い(FAQやセルフサービス化の検討)、開発プロセスにおけるボトルネック。
ベンチマーキング 自社のITコストや効率性(例: ユーザーあたりのITコスト、サーバーあたりの運用コスト)を、業界標準や同業他社と比較する。(第5.5章で詳述) 自社のコストが高い領域、効率性が低い領域。

これらの分析を行う際には、単一のデータだけでなく、複数のデータを組み合わせて多角的に見ることが重要です。例えば、サービスTCOが高いだけでなく、そのサービスのビジネス価値も低い、あるいはインフラ利用率も低いといった情報が組み合わさることで、より確度の高いコスト最適化の判断が可能になります。

5.3 意思決定支援:IT投資評価とポートフォリオ管理

TBMは、データに基づいた客観的で合理的なIT投資判断を行うための強力なツールとなります。これは 「予算と統制」 および 「コスト最適化」 の規律に深く関わります。

IT投資評価への活用:

  • 新規プロジェクトの投資判断:
    • TCO予測: 新しいシステムやサービス導入にかかる初期費用だけでなく、将来の運用保守費用を含めた総コスト(TCO)をTBMモデルに基づいて予測します。
    • ROI分析: 投資によって期待される効果(コスト削減、売上向上、リスク低減など)を定量化し、投資対効果(ROI)を評価します。TBMデータは、既存システムのコスト削減効果などを算出する際に役立ちます。
    • 代替案比較: 複数の技術選択肢や導入アプローチ(例: パッケージ導入 vs スクラッチ開発、オンプレミス vs クラウド)について、それぞれのTCOやROIを比較検討します。
  • 既存システムの維持・改修判断:
    • 現状TCOの把握: 既存システムの正確なTCOを把握し、そのコストがビジネス価値に見合っているかを評価します。
    • 延命 vs リプレース: システムを改修して使い続ける場合のコストと、新しいシステムにリプレースする場合のコスト・効果を比較検討します。
    • サービス廃止判断: 利用率が低く、ビジネス価値も低下しているにも関わらず、高い維持コストがかかっているサービスの廃止を検討します。

ITポートフォリオ管理への応用:

ITポートフォリオ管理とは、企業が保有するIT資産(アプリケーション、インフラ、プロジェクトなど)全体を俯瞰し、ビジネス戦略との整合性を保ちながら、価値を最大化するように管理するアプローチです。TBMは、このポートフォリオ管理において重要な情報を提供します。

評価軸と管理アクションの関係性をマトリクス表で整理する方法です。実際の意思決定では、複数の評価軸を組み合わせてアクションを判断するため、単純な一対一対応ではありませんが、考えられる組み合わせや典型的なパターンを示すのに役立ちます。

例: ITポートフォリオ評価軸と管理アクションのマトリクス

評価軸 投資継続/強化 (Invest) 維持/最適化 (Maintain) 段階的廃止/移行 (Phase Out) 即時廃止 (Retire)
コスト (TCO) 低コスト コスト最適化の余地あり 高コストだが移行計画あり 高コスト
ビジネス価値 中〜高 低下傾向
技術的健全性/リスク 高 (低リスク) 中 (管理可能リスク) 低下 (高リスク化) 低 (高リスク)
利用状況 高/増加傾向 安定/横ばい 低下傾向 ほぼ利用なし
  • 注記: この表はあくまで概念的な例です。実際には、これらの評価軸を総合的に判断してアクションを決定します。例えば、「ビジネス価値は高いが技術的リスクも高い」場合は「維持/最適化(リスク対応)」や「段階的廃止/移行」などが検討されます。

TBMデータを活用することで、各IT資産をこれらの軸で評価し、ポートフォリオ全体として最適な投資配分や整理・統合の意思決定を行うことができます。

5.4 コミュニケーション:ビジネス部門との対話促進

TBMの大きな価値の一つは、IT部門とビジネス部門の間に存在するコミュニケーションギャップを埋めることです。これは 「関係性改善」 の規律に直結します。TBMデータは、両者が共通の理解に基づいて建設的な対話を行うための「共通言語」となります。

対話促進のポイント:

  • ショーバック (Showback):
    • ビジネス部門に対して、彼らが利用しているITサービスのコスト明細を定期的に提示します(請求は伴わない)。
    • 「自分たちが使っているITにはこれだけのコストがかかっている」という意識を高め、コストに対する当事者意識を醸成します。
    • レポートは専門用語を避け、ビジネス部門が理解しやすい言葉や形式で提供します。
  • チャージバック (Chargeback):
    • ショーバックから一歩進んで、利用したITサービスのコストを実際にビジネス部門の予算に賦課(請求)する仕組みです。
    • コストに対する責任感がより強まりますが、配賦の公平性や正確性に対する要求が高まるため、導入には慎重な検討と合意形成が必要です。
  • サービスレベルとコストの関係性の説明:
    • 「より高いサービスレベル(例: 可用性99.99%)を求めるなら、これだけの追加コストがかかる」「現在のコストで提供できるサービスレベルはこの範囲」といったように、サービスレベルとコストのトレードオフを具体的に示します。
    • ビジネス部門が要求するサービスレベルに対するコストインパクトを理解し、現実的な期待値を設定するのに役立ちます。
  • IT投資のビジネス価値の説明:
    • 新しいIT投資提案を行う際に、TBMデータを用いて「この投資によって、あなたの部門のこの業務がこれだけ効率化され、年間XXX円のコスト削減が見込める」といったように、具体的なビジネス価値を説明します。
  • 予算策定プロセスの連携:
    • **「予算と統制」**の規律とも関連しますが、次年度のIT予算を策定する際に、TBMデータに基づいたサービス別コスト予測や、ビジネス部門からの需要予測をインプットとして活用します。
    • IT部門とビジネス部門が協力して、より実態に合った現実的な予算を策定できます。
  • 定期的なレビュー会議:
    • IT部門とビジネス部門の代表者が定期的に集まり、TBMレポートに基づいてコスト状況、サービス利用状況、今後の計画などについて議論する場を設けます(例: QBR)。

TBMデータを介することで、「ITはコストがかかりすぎる」「ビジネスはITに無駄な要求ばかりする」といった感情的な対立を避け、事実に基づいた客観的で建設的な対話が可能になります。

5.5 高度化:ベンチマーキング、What-if分析、成熟度向上

TBMの基本的な運用が定着したら、さらに活用レベルを高め、より戦略的な洞察を得るための高度なアプローチに取り組むことができます。これらは主に 「コスト最適化」「予算と統制」 の規律をさらに深化させる活動です。

  • ベンチマーキング:
    • 目的: 自社のITコストや効率性を、業界標準や同業他社と比較し、自社の強み・弱みや改善機会を客観的に把握します。
    • 比較指標例:
      • 売上高に対するITコスト比率
      • 従業員一人あたりのITコスト
      • サーバー一台あたりの運用コスト
      • ヘルプデスクコールあたりの解決コスト
      • 特定のテクノロジーサービス(例: メール)のユーザーあたり単価
    • 活用方法: 自社のコストが高い領域や効率性が低い領域を特定し、改善目標の設定やベストプラクティスの導入検討に繋げます。ただし、比較対象との前提条件(事業規模、業種、IT環境など)の違いを考慮する必要があります。TBM Councilなどがベンチマークデータを提供している場合があります。
  • What-if分析 (シナリオ分析):
    • 目的: 将来起こりうる様々な変化(ビジネス需要の変動、技術の採用、組織再編、クラウド移行など)が、ITコストやリソースにどのような影響を与えるかを事前にシミュレーションします。
    • 分析例:
      • 「営業部門のユーザーが10%増加した場合、ヘルプデスクコストやライセンスコストはどれだけ増加するか?」
      • 「基幹システムをオンプレミスからクラウドに移行した場合、5年間のTCOはどう変化するか?」
      • 「サーバー仮想化率を現在の60%から80%に向上させた場合、データセンターコストはどれだけ削減できるか?」
    • 活用方法: TBMモデルのパラメータ(利用量、単価、配賦率など)を変更してコストを再計算することで、様々なシナリオの影響を定量的に評価し、将来の計画策定や意思決定のリスク低減に役立てます。
  • TBM成熟度向上:
    • 目的: TBMの活用レベルを自己評価し、改善すべき領域を特定して、継続的にTBMの能力を高めていくための取り組みです。
    • 評価軸例 (TBM Councilのモデルなどを参考に):
      • データの品質と網羅性: 必要なデータが正確かつタイムリーに収集されているか。
      • モデルの精緻さと透明性: 配賦ロジックが合理的で、関係者に理解されているか。
      • レポーティングと分析能力: 適切な情報が適切な相手に提供され、洞察が得られているか。
      • プロセスとガバナンス: TBMの運用プロセスが定義され、定着しているか。ガバナンス体制は機能しているか。
      • 組織文化とスキル: データに基づいた意思決定を行う文化が醸成されているか。担当者のスキルは十分か。
    • 活用方法: 定期的に成熟度評価を行い、弱点となっている領域を特定し、改善計画を立てて実行します。これにより、TBMから得られる価値を継続的に高めていくことができます。

これらの高度な活用を通じて、TBMは単なるコスト可視化ツールから、将来予測や戦略的意思決定を支援する、より強力な経営管理の武器へと進化します。

5.6 【具体例】TBMを活用したコスト削減・投資最適化事例

実際にTBMを導入した企業が、どのようにデータを活用して具体的な成果に繋げたかの事例をいくつか紹介します。これらの事例は、「コスト最適化」「意思決定支援」 といった規律の実践例となります。

  • 事例1: National Grid (国際事例 - 電力・ガス)

    • 課題
      • ITコスト削減による顧客価値向上、働き方変革、規制対応へのプレッシャー。
      • M&A活動によるコスト削減圧力の増大。
      • ビジネス部門とIT部門間のコストに関する透明性の欠如。
    • TBM活用
      • TBMオフィス設立とApptioソリューション(ApptioOne Plus等)の導入。
      • ITコストの外部ベンチマーク比較による透明性確保と最適化機会の特定。
      • アプリケーションTCO分析、ネットワーク/クラウドコスト最適化、技術的負債特定への活用。
      • 事業売却時の移行サービス契約(TSA)に関する信頼できる唯一の情報源(Single Source of Truth)として利用。
    • アクション
      • TBMオフィス設立とApptioスイート導入。
      • ベンチマークに基づき約130の外部最適化イニシアチブを開始。
      • アプリケーション合理化(約400アプリ特定)、ネットワーク/クラウドコスト最適化、技術的負債削減に注力。
      • 消費量に基づいた配賦モデルと包括的な「Bill of IT」を開発。
      • アプリケーションサポート費用の分析とサービスレベルの見直しを実施。
    • 成果
      • 初年度に年間4,700万ドルのコスト削減を達成し、3年間で1億ドル以上の削減目標を上回るペース。
      • アプリケーション合理化(200万ドル/年)、ネットワーク(100万ドルクレジット)、クラウド(300万ドル)、技術的負債(100万ドル/年)、サポート費用(300万ドル)で具体的な削減を実現。
      • 事業売却に関連して約4,000万ドルの座礁コストを特定。
      • IT部門、規制対応チーム、財務部門間の対話が事実に基づき結果重視なものへ変化。
    • ソース
  • 事例2: UPS (国際事例 - 物流)

    • 課題
      • レガシーなチャージバックシステム(Access/Excel)が陳腐化し、扱いにくく、レポート作成に時間がかかっていた。
      • 請求額の正当性を示す詳細データが不足し、ビジネス部門への説明責任を果たせない。
      • 複雑なクエリやマクロの理解に時間がかかり、人員配置が困難。
    • TBM活用
      • 既存モデルにTBMフレームワークとタクソノミーを適用。
      • ApptioベースのTBMシステム導入による自動化・強化と、明確なサービス階層の作成。
      • アプリケーションTCO追跡、Run対Grow支出分析。
      • Cloudabilityを活用したパブリッククラウド支出の管理・最適化(異常検知、適正化等)。
    • アクション
      • TBM諮問グループと運営委員会を設立し、経営幹部の関与を確保。
      • ApptioとCloudabilityを導入し、新しいアプリケーションサービス階層を作成。
      • 経営層との月次TBMレビューを制度化。
      • TBMデータを活用し、メインフレームストレージ削減などの最適化プロジェクトを推進。
      • クラウドベンダーとの交渉にTBMデータを活用。
    • 成果
      • Cloudabilityのレポート活用で、あるベンダーとの3年契約で1,100万ドルを節約。
      • メインフレームストレージ消費量を85%削減し、直近のアップグレードで84万ドル節約。
      • レポーティングを通じて35万ドルの税務上の節約を実現(年間継続見込み)。
      • クラウドプロバイダーから34万ドルを事前に回収(異常検知)。
      • アプリケーションTCO精度向上により、プラットフォーム移行やモダナイゼーションに関する意思決定が改善。
    • ソース
  • 事例3: みずほフィナンシャルグループ (国内事例 - 金融)

    • 課題
      • 役員からのITコスト可視化要求に対し、手作業での資料作成に多大な工数がかかっていた。
      • 過去データの再利用が困難で、作業の手戻りが発生していた。
      • ビジネス部門からITコストの妥当性が理解されにくいというコミュニケーション上の課題。
    • TBM活用
      • TBMの方法論とApptioプラットフォームを活用し、ITコスト構造を可視化。
      • アプリケーションごとにコストをソフトウェア、ハードウェア、人件費などの階層に分解。
      • TBMの原則をITシステムのプロジェクト管理にも適用し、プロジェクト状況を把握。
    • アクション
      • Apptioを導入し、全社のアプリケーションコスト構造を可視化。
      • プロジェクトポートフォリオ管理にTBMの方法論を適用開始。
      • 将来的に投資・経費シミュレーションにも活用することを計画。
    • 成果
      • ITコストと価値に関するIT部門と業務部門間の対話が大幅に改善。
      • IT投資に関する意思決定が、より的確かつ迅速に行えるように。
      • コスト構造の可視化により、「利用頻度が低く重要でもないアプリケーションが高価なインフラに乗っている」といった最適化の機会を特定可能に。
      • 将来的にはシミュレーション活用による投資優先順位付けやシステム更改・廃止時期に関する意思決定の精度向上を期待。
    • ソース
  • 事例4: Bank of Ireland (国際事例 - 金融)

    • 課題
      • 場当たり的なコスト管理・予算策定で、意思決定が感情に左右されがち。
      • IT資産全体のTCO(総所有コスト)可視性が不足し、効果的な管理が困難。
      • 透明性のある客観的なアプリケーションポートフォリオ管理(APM)アプローチの確立が必要。
    • TBM活用
      • Apptio導入によるAPM強化とデータ駆動型意思決定の実現。
      • サービス、アプリケーション、コストタワー全体のTCOビューによるコスト・効率管理。
      • アプリケーションレベルのライフサイクルビューとコスト内訳による投資戦略評価支援。
      • 確定データに基づく戦略的投資ロードマップ(3年・5年)の作成。
      • ベンダー別TCOデータ活用によるソーシング戦略(契約交渉、サービス継続判断)の改善。
    • アクション
      • Apptioを選定し、2021年3月に導入を開始。
      • サービス、アプリケーション、コストタワー全体のTCOビューを確立。
      • Apptioデータを活用して契約更改交渉を実施(例:ライセンス数を5,000から400に削減)。
      • 古いアプリケーションを特定し廃止(ヘリテージ・エリミネーション)。
      • 得られた洞察を戦略的な労働力配分(内部対サードパーティ)に活用。
    • 成果
      • 初年度に250万ユーロを節約し、翌年以降も同程度の節約が見込まれる(うち約140万ユーロは継続的利益)。
      • 初年度にアプリケーションポートフォリオを15%削減し、さらなる合理化を計画中。
      • アプリケーションの安定性、保守性、ライフサイクル、コストに関する明確な可視性を達成。
      • データ駆動型の戦略的・運用上の意思決定が可能になり、ビジネス戦略、リスク削減、労働力配分にも貢献。
      • 財務部門や調達部門もApptioのユーザーとなり、利点がIT部門以外にも拡大。
    • ソース
  • 事例5: Stanley Black & Decker (国際事例 - 製造)

    • 課題
      • 複雑なM&A&D活動におけるITコスト見積もりが、従来の手作業では時間がかかりすぎていた(2週間以上)。
      • 非常に厳しいスケジュールの中で、正確かつ防御可能なITコスト情報が必要。
      • 約1,500のアプリケーションを含む複雑なITエコシステムが課題を増大させていた。
    • TBM活用
      • 戦略的なM&A&D支援と一般的なITコスト透明性のために確立されていたTBM能力(ツール、手法、プラクティス)を活用。
      • 自動化されたレポーティングとオンデマンド分析にTBMツールを使用し、ディールチームからの質問に対応。
    • アクション
      • 確立されたTBMツールとプロセスを利用して、事業売却に必要なITコスト見積もりを作成。
      • 手作業によるコスト追跡と検証を、自動化されたTBMレポーティングに置き換え。
      • 将来のM&A&Dをサポートするための反復可能なプロセスを開発。
    • 成果
      • 最初のITコスト見積もり提供時間を2日未満に短縮(従来比85%削減)。
      • 取引関連コストを60%削減し、ディールモデルにおけるコストの精度が数百万ドル改善。
      • ITコストデータに対するステークホルダーの信頼が劇的に向上。
      • TBMが共通言語として定着し、関連システム(PPM、CMDB、調達)の設計に影響を与えるなど、文化的な変化を推進。
      • 2022年のTBM Council Business Innovation Awardを受賞。
    • ソース
  • 事例6: First American (国際事例 - 金融サービス)

    • 課題
      • ITポートフォリオが拡大し、冗長システムが疑われるも、特定やTCO計算、機会損失の理解が困難。
      • IT予算をビジネスリーダーに説明し、正当化することが困難。
      • ポートフォリオプロジェクト管理とデマンド管理の改善が必要。
    • TBM活用
      • ApptioのTBMソリューションを使用し、関連ディメンション全体で完全なITコストの透明性を獲得。
      • サービスのTCOと事業ラインごとのコストドライバーを理解。
      • ITをビジネスのように運営し、コストをビジネス用語で説明するためにTBMを活用。
    • アクション
      • Apptio TBMソリューションを導入。
      • 100を超えるレガシーアプリケーションを発見。
      • いくつかのインフラ最適化イニシアチブを開始。
      • 予算を「Run-the-business」(現状維持)から「Change-the-business」(変革推進)プロジェクトへシフトすることに注力。
    • 成果
      • 「完全かつ全面的なITコストの透明性」を達成。
      • 大幅な最適化の機会を特定し、総インフラコストのほぼ10%を削減する計画を策定。
      • 削減された費用を、顧客体験向上や市場シェア拡大を目指す「Change」イニシアチブに戦略的にシフト可能に。
      • コストと品質のトレードオフに関するビジネスパートナーとの対話と協力が改善。
      • IT戦略が単なるコスト抑制から意味のある最適化へと移行。
    • ソース
  • 事例7: Washington State (米国 - 公共部門)

    • 課題
      • 信頼できるIT支出データがなく、標準的なタクソノミーや一元化された報告メカニズムも存在しなかった。
      • 納税者のお金がITにどのように使われ、どのような価値が得られているのかを理解することが困難。
      • 複数のソフトウェア報告アプリケーションが乱立し、初期のコスト透明化の取り組みは失敗。
    • TBM活用
      • 2014年に標準化されたTBMタクソノミーを採用・導入。
      • 単一のエンタープライズソフトウェア構成と州の中央会計システムを使用してデータ収集アプローチを統合。
      • 州CIO室(OCIO)内に中央TBMオフィスを設置し、サポートを提供し一貫性を確保。
      • TBMデータを活用して、議会向けのより詳細な報告、機関間の支出比較、サービスコスト評価、近代化努力の正当化を実施。
    • アクション
      • OCIO内にTBMオフィスとTBM諮問グループを設立。
      • TBMタクソノミーとエンタープライズソフトウェアを導入。
      • 各機関内でデータコーディングプロセスを改善(エラーの特定と修正)。
      • 州の勘定科目表をTBMのニーズに合わせて再構築。
      • TBMデータを使用してクラウドサービスプロバイダーの消費量を分析し、ストレージを最適化。
    • 成果
      • データ品質と透明性が大幅に向上し、「未定義」のIT支出が全体の15%から5%に減少。
      • ITコストと価値に関するデータ駆動型の議論が可能に。
      • ビジネス価値を実証(例:機関のサービス効率を民間部門と比較、近代化に伴う料金値上げを正当化)。
      • コスト削減の機会を特定(例:クラウドストレージの最適化、誤ってコード化された非IT支出の修正)。
      • 議会に対して、より詳細で正当化可能な報告を提供できるように。
    • ソース

主要事例における定量的成果の比較

企業名 業界 主要課題領域 主要な定量的成果
National Grid 電力・ガス コスト削減圧力、規制対応、M&A&D複雑性 初年度年間$47M削減 (アプリ$2M/年, ネットワーク$1Mクレジット, クラウド$3M, 技術負債$1M/年, サポート$3M削減, 座礁コスト$40M特定)
UPS 物流 レガシーチャージバックシステム、透明性欠如 クラウド契約$11M削減(3年), ストレージ$840k削減, 税務$350k削減, クラウド回収$340k
みずほFG (Mizuho FG) 金融 手作業レポート、ITコスト説明困難 意思決定迅速化・精度向上、部門間対話改善 (金額非公開)
Bank of Ireland 金融 コスト複雑性、主観的意思決定 初年度€2.5M削減 (契約/サポート等€1.4M含む), アプリポートフォリオ15%削減
Stanley Black & Decker 製造 M&A&D時のITコスト見積もり遅延・不確実性 M&A&D見積もり時間85%短縮、取引関連コスト60%削減 (数百万ドル相当)
First American 金融サービス ITコスト不透明性、冗長システム インフラコスト約10%削減目標、RunからChangeへの予算シフト
Washington State 公共部門 IT支出不透明性、データ品質、説明責任 未定義支出15%→5%削減、データ品質向上、コスト削減機会特定 (クラウド最適化等)

この表は、TBMおよび関連するIT財務管理手法が、多様な業界や課題に対して具体的な金銭的価値や効率改善をもたらすことを示しています。

特に、コスト透明性の向上、アプリケーションやインフラの合理化、クラウド支出の最適化、契約交渉力の強化などが、顕著な成果を生み出す共通の領域であることが読み取れます。

5.7 IT部門の立ち位置とTBMの活用

TBMの活用方法は、組織におけるIT部門の立ち位置(役割や期待される貢献)によっても異なります。自社のIT部門がどの立ち位置に近いかを理解することで、より効果的なTBMの実践が可能になります。

IT部門の立ち位置

立ち位置 特徴
ビジネスドライバー ・対外的にテクノロジーサービスを提供している
・SaaSやIaaSなどを通して対外的な売上をあげる
・リテールのECストア事業部などにも適用できる
バリューパートナー ・技術サイドのリーダーが、IT活用だけでなく、ビジネス変革を利用部門と共に検討
・事業会社のIT部門を考えた際に最適
サービスプロバイダー ・提供ITサービスのオーナーとビジネスリレーションシップマネジャーを配置し、ITサービスのマネジメントを実施
・ビジネス部門からの新たな要求に対応するため、ITサービス開発という既存の枠組みで対応する
・外部SaaSにとって代わられる可能性がある
エクスペンスセンター ・サービス志向が希薄で、IT予算を単にコストとみなしている
・IT予算は売上の何%以内など、不適切なやり方を採用
・今日のどの組織にもふさわしくない

立ち位置と規律の関係

IT部門の立ち位置によって、TBMの各規律(可視化、予算と統制、コスト最適化、関係性改善)における重点の置き方や具体的な活動内容が変わってきます。

IT部門の立ち位置 可視化 IT予算と統制 コスト最適化 関係性改善
ビジネスドライバー ビジネスケイパビリティについてのTCOを管理。テクノロジーによるビジネス成果(売上増や業務効率化等)に対するテクノロジーコストを把握 テクノロジー予算は、提供サービスに欠かすことができず、その計画はビジネス計画の一部として統合 ビジネスケイパビリティに対するユニットコストを管理し、テクノロジー活用によるさらなるコスト削減の余地を探求 テクノロジーコストが提供サービスコストの一部となっており、提供サービスに対する需要はマーケットの動向により決定
バリューパートナー ITサービスTCOをユニットコストをベースとして管理。ITサービスオーナーは利用部門のビジネス成果と利用状況を把握(1ビジネストランザクションに対するコスト等) テクノロジー予算は、利用部門の計画に基づいており、ITサービスの維持に必要な予算とイノベーションに必要な予算が明確になった形で決定 ITサービスのユニットコストをトラックしており、ビジネス価値の改善とコストのトレードオフを実施可能 テクノロジーコストは利用部門のコストとみなされており、利用部門のP/Lに反映(チャージバック)
サービスプロバイダー サービスデリバリーのコストをユニットコストをベースとして管理。ITサービスオーナーは、利用部門による当該のITサービスの利用状況を把握 テクノロジー予算は利用部門が利用するITサービスの総額に基づいて決定 社内の部署間や同業他社とのベンチマークや、ビジネスパフォーマンスに対するコストターゲットの設定し、改善活動を実施 テクノロジーコストは利用部門の利用状況またはあらかじめ設定されたレートに基づいて配賦。利用部門は利用状況に基づいた請求書を受領(ショーバック)
エクスペンスセンター 財務報告を基にテクノロジーコストを把握。利用部門とコストやビジネスパフォーマンスに関する対話が未実施 テクノロジー予算は「売上の何%以内」や「社員1人当たりのITコスト」などおおまかに決定 ビジネスインパクトやリスクを考慮せずに、トップダウンによるコスト削減を実施 テクノロジーコストは利用部門に全く配賦をされないか、または従業員数に基づいた配賦などおおまかなレートにより実施

自社のIT部門の現状の立ち位置と目指すべき姿を明確にし、それに合わせてTBMの活動を計画・実行していくことが、IT価値経営を実現する上で重要となります。