RDRAの要件モデルから、定量的にソフトウェア開発の工数・工期・コストを見積もる方法を解説します。SFP(Simple Function Point)法とRDRAモデルを組み合わせることで、要件定義の早い段階で概算見積もりを算出できます。
本記事では、SFP法の理論的背景だけでなく、RDRAのBUCシート・情報シートからEP/LFを数える際の補正ルール(CRUD統合画面やダッシュボードの扱い)、IPA/JUAS統計データを用いたレンジ見積もり、妥当性検証のチェックポイントまで、実務で判断に迷いやすい箇所を重点的に整理しています。
SFP法の仕組み
SFP法とは
SFP(Simple Function Point)法は、ソフトウェアの機能規模を2つの要素だけで測定する簡易手法です。IFPUG FPAから複雑度判定を省略し、迅速な規模算出を実現します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 提唱者 | Roberto Meli(2010年設計、2011年SMEF2011で発表) |
| 標準化 | 2019年にIFPUGが公式取得。公開確認済みの最新版は SFP v2.1(2021年10月) |
| ISO準拠 | ISO/IEC 14143-1(機能規模測定法の定義)に準拠 |
計算式
SFPの計算式は以下のとおりです。
Size[SFP] = 4.6 × EP数 + 7.0 × LF数
| 要素 | 説明 |
|---|---|
| EP(Elementary Process) | ユーザーまたは外部システムとのやりとりを伴う処理の最小単位。IFPUG FPAの EI/EO/EQ の区別を省略し一括で扱う。重み 4.6 |
| LF(Logical File) | システムが保持する論理的なデータグループ。IFPUG FPAの ILF/EIF の区別を省略し一括で扱う。重み 7.0 |
重み付け値(4.6, 7.0)は、ISBSGの大規模データセットから経験的に導出されています。SFP値がIFPUG FPAの未調整FP(UFP)と平均的に一致するよう設計されています。
IFPUG FPAとの差異
SFPが省略する工程は以下の3つです。
| 工程 | IFPUG FPA | SFP |
|---|---|---|
| データ機能の分類(ILF/EIF) | 必要 | 省略(LFに統合) |
| トランザクションの分類(EI/EO/EQ) | 必要 | 省略(EPに統合) |
| 複雑度判定(DET/RET/FTR → Low/Average/High) | 必要 | 省略(固定重みで代替) |
IFPUG FPAでは機能種別×複雑度で15通りの重み(3〜15)を使います。SFPではEP=4.6、LF=7.0の2通りのみです。
精度の実証データ
| 研究 | データセット | SFP-UFP換算係数 | 平均相対誤差 |
|---|---|---|---|
| Meli, 2011 | ISBSG 768PJ | UFP = 1.0005 × SFP | 約12% |
| Lavazza & Meli, 2014 | ISBSG 766件 | SFP = 0.998 × UFP | 約12% |
| 多データセット検証, 2017 | 7データセット | k = 0.957〜1.221 | データセット依存 |
工数見積もりモデルの精度は、SFPベースとUFPベースで統計的に有意な差がありません(符号検定)。ただし換算係数はデータセット依存で k = 0.957〜1.221 の振れ幅があります。平均的にはSFP ≒ UFP として扱えますが、適用する案件群の傾向次第で誤差が±20%程度まで広がる点に留意してください。IFPUG FPの生産性データをSFPに適用する場合は、自社の実績データで校正することを推奨します。
類似手法との精度比較
| 手法 | UFPとの平均誤差 | 必要な識別 | 計測の速さ |
|---|---|---|---|
| SFP | 約12% | EP/LFの2種類 | 非常に速い |
| NESMA Indicative | 約16.3% | ILF/EIFの2種類 | 最も速い |
| NESMA Estimated | 約1.5% | ILF/EIF/EI/EO/EQの5種類 | 中程度 |
| IFPUG FPA Detailed | 基準(0%) | 5種類+複雑度判定 | 遅い |
SFPはNESMA Indicativeに近い手軽さで、より高い精度を達成します。
RDRAモデルからSFPへのマッピング
SFP法の計算式が分かったところで、RDRAの成果物からEP/LFをどう数えるかを見ていきます。
基本マッピングルール
RDRAのシステム境界レイヤーと情報モデルからEP/LFを数えます。
| RDRAの成果物 | 対象要素 | SFP要素 | 重み | カウント方法 |
|---|---|---|---|---|
| BUCシート | 画面(UI/帳票) | EP | 4.6 | 画面・帳票の数をカウント |
| BUCシート | イベント(外部システムI/F) | EP | 4.6 | 外部システムとのインタフェースの数をカウント |
| BUCシート | タイマー(定時バッチ) | EP | 4.6 | 定時実行される処理の数をカウント |
| 情報シート | 情報(データエンティティ) | LF | 7.0 | システムが管理する情報の数をカウント |
EPのカウント手順
Step 1: BUCシートからシステム境界要素を抽出する
RDRAのBUCシートは「業務 → BUC → アクティビティ → UC」の階層構造を持ちます。UCに紐づく以下の要素がEPの候補です。
業務: 受注管理
BUC: 受注を登録する
アクティビティ: 受注情報を入力する
UC: 受注登録
→ 画面: 受注登録画面 ← EP候補
→ 画面: 受注確認画面 ← EP候補
アクティビティ: 在庫を確認する
UC: 在庫照会
→ 画面: 在庫照会画面 ← EP候補
→ イベント: 在庫API連携 ← EP候補
BUC: 月次集計を行う
アクティビティ: 月末締め処理
UC: 月次集計
→ タイマー: 月末集計バッチ ← EP候補
Step 2: EP数を確定する
基本ルールは「画面/イベント/タイマーの数 = EP数」です。ただし以下の補正が必要です。
| ケース | 基本カウント | 補正 | 理由 |
|---|---|---|---|
| CRUD統合画面(一覧+登録+更新+削除が1画面) | 1 EP | 3〜5 EP | 内部的に複数のトランザクションが存在。IFPUG FPAでは一覧=EQ、登録=EI、更新=EI、削除=EIと分けてカウント |
| ダッシュボード画面(複数の集計・グラフ) | 1 EP | 2〜5 EP | 複数のデータ取得・集計処理が1画面に集約 |
| ウィザード画面(複数ステップ) | 1 EP | ステップ数分 | 各ステップが独立したデータ入力トランザクション |
| 静的表示画面(ヘルプ、利用規約) | 1 EP | 0.5 EP(または除外) | トランザクションではなく静的コンテンツ |
| 類似画面の繰り返し(同パターンの入力画面が多数) | N EP | N × 0.7 EP(経験則) | 共通コンポーネント化で実工数が減少 |
補正ルールの位置づけ: CRUD統合やダッシュボードの補正は、IFPUG FPAで「一覧=EQ、登録=EI、更新=EI、削除=EI」と分けてカウントする原理を踏まえた補正です。一方、「類似画面 N×0.7」は著者の経験則であり、適用時は自社実績との整合を確認してください。
補正の判断基準は「ユーザーが認識する独立した処理がいくつあるか」です。1画面でも「検索する」「登録する」「削除する」が独立した操作であれば、3つのEPとして数えます。
重複排除ルール(二重カウント防止)
RDRAのBUCシートでは、同一の画面・API・タイマー処理が複数のUCから参照されるケースが頻出します。UC起点でEPを数えると二重カウントが発生するため、以下のルールで一意化してください。
| ケース | 対応 |
|---|---|
| 同一画面が複数UCから参照 | 画面IDで一意化し、1 EP として1回だけカウント |
| 共通API・共通サービス | APIエンドポイントIDで一意化し、1 EP として1回だけカウント |
| 同一タイマー処理が複数UCをトリガー | タイマー処理IDで一意化し、1 EP として1回だけカウント |
実務のコツ: UC起点でEPを数えるのではなく、境界要素台帳(画面一覧・API一覧・タイマー一覧)を作成し、そこからカウントすると重複を防ぎやすくなります。
Step 3: EP補正値を記録する
| UC | 画面/イベント/タイマー | 基本EP | 補正理由 | 補正後EP |
|---|---|---|---|---|
| 受注登録 | 受注登録画面 | 1 | CRUD統合(一覧+登録+更新+削除) | 4 |
| 受注登録 | 受注確認画面 | 1 | 単純表示 | 1 |
| 在庫照会 | 在庫照会画面 | 1 | — | 1 |
| 在庫照会 | 在庫API連携 | 1 | — | 1 |
| 月次集計 | 月末集計バッチ | 1 | — | 1 |
| 合計 | 5 | 8 |
LFのカウント手順
Step 1: 情報シートからエンティティを抽出する
RDRAの情報シートに定義された「情報」がLFの候補です。情報とは「システムが管理する概念的なデータ群」を指します。
情報シートの例:
- 顧客
- 商品
- 受注
- 受注明細
- 在庫
- 請求
- 入金
- マスタ(区分値)
→ LF数 = 8
Step 2: 粒度を確認する
LF数はエンティティの分割粒度に依存します。以下の基準で統一してください。
| 判断基準 | カウント方法 | 例 |
|---|---|---|
| 独立してCRUDされるデータ群 | 1 LF | 「顧客」「商品」はそれぞれ独立に登録・更新される → 各1 LF |
| 親子関係で常にセットで扱われる | 親のみ1 LF | 「受注」と「受注明細」が常にセットで登録・表示される → 1 LF |
| 親子関係だが独立にも操作される | それぞれ1 LF | 「受注」は単独で検索、「受注明細」は個別に追加・削除できる → 2 LF |
| 区分値・コードマスタ | まとめて1 LF | 都道府県コード、商品カテゴリ等の小規模マスタ群 → 合計1 LF |
| 外部システムのデータ(参照のみ) | 1 LF | 外部の在庫システムから取得するデータ → 1 LF |
粒度の目安は「ER図でエンティティとして独立させるかどうか」と同じ判断基準です。過度に細かく分割する必要はありません。
SFP算出の全体フロー
1. BUCシートから画面/イベント/タイマーを一覧化する
2. 各要素のEP数を確定する(補正含む)
3. 情報シートからエンティティを一覧化する
4. 各エンティティのLF数を確定する(粒度調整含む)
5. SFP = 4.6 × EP合計 + 7.0 × LF合計
計算例
■ EP一覧
画面: 20個(うち CRUD統合画面 5個 → 5×4=20 EP、残り15個 → 15 EP)
イベント: 8個 → 8 EP
タイマー: 3個 → 3 EP
EP合計 = 20 + 15 + 8 + 3 = 46 EP
■ LF一覧
独立エンティティ: 10個
親子統合: 2組 → 2 LF
区分マスタ群: → 1 LF
LF合計 = 10 + 2 + 1 = 13 LF
■ SFP算出
SFP = 4.6 × 46 + 7.0 × 13 = 211.6 + 91.0 = 302.6 SFP
SFPから工数・工期・金額への変換
SFP値が算出できたら、次は工数・工期・金額に変換します。ここではIPA/JUASの統計データを活用します。
開発工数の算出
開発工数は以下の式で算出します。
開発工数(人月) = SFP ÷ 生産性(SFP/人月)
生産性パラメータの設定
| シナリオ | 推奨値(SFP/人月) | 根拠 |
|---|---|---|
| 高難度(基幹系、金融、高信頼要求) | 10〜15 | IPA工数密度P75(9.94人月/100FP)から逆算 |
| 標準(業務系Webアプリ、Java/C#) | 15〜25 | IPA工数密度中央値(6.31人月/100FP)から逆算 |
| 低難度(シンプルCRUD、ローコード) | 25〜40 | IPA工数密度P25(3.88人月/100FP)から逆算 |
上記はIPAソフトウェア開発分析データ集2022の工数密度統計からの逆算参考値です。自社の過去実績データがあれば、そちらを優先してください。
レンジ見積もりの方法
ポイント見積もり(1つの値)ではなく、3値で算出します。
楽観: SFP ÷ 高生産性値(P25相当)
最頻: SFP ÷ 中央値
悲観: SFP ÷ 低生産性値(P75相当)
SFP = 302.6 の場合:
楽観: 302.6 ÷ 25 = 12.1 人月
最頻: 302.6 ÷ 16 = 18.9 人月
悲観: 302.6 ÷ 10 = 30.3 人月
→ 開発工数: 12〜30人月(最頻値 19人月)
工程別配分(ウォーターフォール)
IPA「ソフトウェアデータ白書2018-2019」中央値に基づく初期値です。
| 工程 | 比率 | 調整の目安 |
|---|---|---|
| 基本設計 | 15% | 要件が複雑なら引き上げ |
| 詳細設計 | 20% | — |
| 製造(コーディング・単体テスト) | 35% | 技術的難易度で調整 |
| 結合テスト | 15% | 外部連携が多ければ引き上げ |
| 総合テスト | 15% | 品質要件で調整 |
JUAS 2025調査では、要件定義:設計〜結合テスト:総合テスト = 15:60:25 という集約形で報告されています。
非比例工数の加算
開発規模に比例しない工数を工程ごとに加算します。この工数の見落としが見積もり失敗の主要因になります。
| 項目 | 内容 | 見積もり方法 |
|---|---|---|
| 基盤工数 | インフラ構築、ミドルウェア設定、CI/CD | 過去実績またはボトムアップ |
| 移行工数 | 既存データ移行、クレンジング、検証 | データ量とルール複雑度から積算 |
| 運用準備工数 | マニュアル整備、監視設定、トレーニング | 対象者数・ドキュメント量から積算 |
| その他 | 外部機関調整、セキュリティ審査等 | 個別見積もり |
基盤工数の見積もり
基盤工数は以下の変動要因から見積もります(数値はSI現場の経験則)。
| 変動要因 | 増減の目安 |
|---|---|
| 環境数(dev/stg/prod、DR環境等) | 環境数 × 基本工数 |
| インフラ種別 | クラウド(IaC活用)は工数少、オンプレは工数大 |
| CI/CDパイプライン数 | パイプライン1本あたり0.5〜1人月 |
| セキュリティ要件 | 監査ログ、WAF、IDS等の有無で±20〜50% |
目安値: 小規模PJで開発工数の10〜15%、大規模PJで15〜25%を初期値として積み上げます。
IPA非機能要求グレードからの算出
より構造化された見積もりが必要な場合、IPAの「非機能要求グレード」を基軸にする方法があります。
| カテゴリ | 基盤工数に影響する代表例 |
|---|---|
| 可用性 | HA構成、DR環境、フェイルオーバー機構 |
| 性能・拡張性 | オートスケーリング、ロードバランサ、キャッシュ |
| 運用・保守性 | 監視、ログ集約、アラート、CI/CD |
| 移行性 | 並行稼働、段階移行の環境準備 |
| セキュリティ | WAF、IDS、暗号化、監査ログ |
| システム環境・エコロジー | 複数環境(dev/stg/prod/DR) |
各カテゴリのグレード(Lv1〜Lv3)に応じて係数を掛けて積み上げます。
| グレード | 係数の目安 |
|---|---|
| Lv1(簡易) | 1.0 |
| Lv2(標準) | 1.5〜2.0 |
| Lv3(高度) | 2.5〜4.0 |
自社・クラウドベンダー別にカテゴリ別の基本工数テーブルを整備し、過去実績で校正すると精度が向上します。IaC資産が整備されている場合は係数を下方修正してください。
移行工数の見積もり
移行工数は「データ量 × 変換ルール複雑度 × 検証密度」で決まります。
| 変動要因 | 見積もりの観点 |
|---|---|
| 移行対象テーブル数 | テーブル数 × 単価工数(0.1〜0.5人月/テーブル) |
| 変換ロジック複雑度 | 1:1マッピング(軽)、変換・集約(中)、複数ソース統合(重) |
| データ品質 | クレンジング要否、欠損データの扱い |
| データ量 | リハーサル回数、移行実行時間 |
| 検証要件 | 全件検証 vs サンプル検証 |
目安: テーブル数を基本単位とし、変換ロジックの複雑度を1.0(軽)/1.5(中)/2.5(重)で係数補正します。クレンジングが必要な場合はさらに×1.3〜1.5します。
運用準備工数の見積もり
運用準備工数は以下の要素を積み上げます。
| 項目 | 見積もりの観点 |
|---|---|
| マニュアル・運用手順書 | ドキュメント本数 × 作成工数(0.2〜0.5人月/本) |
| 監視設定 | メトリクス数、アラート定義数、ダッシュボード数 |
| 障害対応訓練 | 訓練シナリオ数 × 実施工数 |
| エンドユーザー教育 | 対象人数 × 研修時間 + 教材作成工数 |
| 運用引き継ぎ | 並行稼働期間、運用チーム人数 |
目安: 開発工数の5〜15%を初期値とし、引き継ぎ対象の複雑度で調整します。
非比例工数の合計目安
以下の数値は、複数のSIプロジェクトの経験則です。自社実績がある場合は、必ずそちらを優先してください。
| PJ特性 | 非比例工数 / 開発工数 |
|---|---|
| 新規SaaS開発(移行なし、クラウドネイティブ) | 15〜25% |
| 既存システム刷新(データ移行あり) | 30〜50% |
| 基幹系刷新(複雑な移行、運用要件) | 50〜80% |
非比例工数が開発工数の50%を超える場合は、ボトムアップ見積もりに切り替えて精度を確保してください。
管理工数の加算
管理工数 = (開発工数 + 非比例工数) × 管理工数率
| 規模 | 管理工数率 |
|---|---|
| 初期値 | 10% |
| 大規模PJ(50人月超) | 15〜20% |
| 少人数PJ(10人月未満) | 5〜10% |
全体工数と工期
全体工数 = 開発工数 + 非比例工数 + 管理工数
標準工期はJUAS式で算出します。
標準工期(月) = ∛全体工数(人月) × 3.23
(JUAS ソフトウェア・メトリクス調査2025。旧調査では係数2.70)
SFP = 302.6、最頻値ベースの場合:
全体工数 = 18.9 + 4.5 + 2.3 = 25.7 人月
標準工期 = ∛25.7 × 3.23 ≒ 9.5 ヶ月
金額算出
見積金額 = 全体工数 × 人月単価
妥当性の検証方法
業界標準データとの比較
算出した工数・工期を、以下の業界統計データと比較してレンジ内に収まるか確認します。
| データソース | 提供情報 | 入手方法 |
|---|---|---|
| IPA ソフトウェア開発分析データ集 | FP生産性統計(5,546PJ)、工数密度の四分位範囲 | IPA公式サイト |
| JUAS ソフトウェア・メトリクス調査 | 工数-工期の散布図、標準工期式 | JUAS公式サイト |
チェックポイント
- SFP生産性が業界レンジ内か: IPA P25〜P75(約10〜26 FP/人月)の範囲内に収まるか確認
- 工期が標準工期と大きく乖離していないか: JUAS式
∛工数 × 3.23からの乖離率を確認 - 工程比率が業界標準と大きく乖離していないか: 設計30〜40%、製造30〜40%、テスト20〜30%が一般的な傾向
過去プロジェクトでの逆算検証
最も有効な検証方法は、過去プロジェクトの実績から自社の生産性パラメータを算出することです。
手順:
1. 過去PJの実績工数(人月)を記録する
2. そのPJのRDRAモデル(または相当する要件定義)からEP/LFを数える
3. SFP = 4.6 × EP + 7.0 × LF を算出する
4. 実績生産性 = SFP ÷ 実績工数 を算出する
5. 複数PJで実施し、自社の生産性レンジを特定する
他手法との突合せ
原理の異なる見積もり手法を最低1つ併用し、結果を比較します。
| 併用手法 | やり方 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| ボトムアップ見積もり | WBSを展開し、タスクごとに工数を積み上げ | SFP見積もりとの乖離が30%以内か |
| 類推法 | 過去の類似PJの実績工数と比較 | 規模感の一致 |
| 3点見積もり | 楽観/最頻/悲観をチームで合意 | SFPのレンジに包含されるか |
乖離が大きい場合は、EP/LFのカウント漏れ、生産性パラメータの設定ミス、非比例工数の見落としを疑ってください。
注意事項と限界
SFP法自体の限界
| 限界 | 影響 | 対策 |
|---|---|---|
| 複雑度を無視 | すべてのEP/LFを平均的な複雑度として扱い、複雑なPJほど過少見積もりリスクが増大 | EP補正で部分的に対応。複雑なPJではSFP値に係数1.2〜1.5を適用 |
| 非機能要件が対象外 | 性能・セキュリティ・可用性の工数がSFPに反映されない | 非比例工数として別途積算 |
| 内部ロジックが反映されない | ユーザーが認識しないバッチ処理・集計ロジック等がカウントされない | タイマーEPとして可能な限り切り出し。残りは非比例工数に含める |
| FP→工数変換のばらつき | 生産性パラメータ(SFP/人月)の変動が見積もり全体の誤差を支配 | レンジ見積もり(3値)で対応。過去実績による校正が最重要 |
RDRAモデルの粒度に関する注意
| 問題 | 具体例 | 対策 |
|---|---|---|
| 画面の粒度ばらつき | 「受注管理画面」を1画面とするか「一覧」「登録」「詳細」に分けるかでEP数が変動 | EP補正ルールを適用し、チーム内で粒度基準を合意 |
| 情報の粒度ばらつき | 「顧客」を1つとするか「個人顧客」「法人顧客」「連絡先」に分けるかでLF数が変動 | 「独立してCRUDされるか」を基準に統一 |
| RDRAモデルの詳細度不足 | システム境界レイヤーまで定義されていないとEP/LFをカウントできない | 最低でもBUCシートの画面/イベント/タイマーと情報シートが必要 |
疑似精度の罠
「数値が出る ≠ 正確である」 という点に注意してください。
- 要件定義段階の見積もりは不確実性コーン理論で 0.25x〜4x の誤差範囲にあります
- SFP見積もりで「25.7人月」と出ても、実際は6〜100人月の可能性があります(理論上)
- 必ずレンジ(楽観/最頻/悲観)で提示し、意思決定者に概算であることを伝えてください
- 単一の数値を確定予算として扱わないでください
不向きなプロジェクト
| パターン | 理由 | 乖離方向 |
|---|---|---|
| バッチ処理主体のシステム | 内部ロジックがFPに反映されない | 過少見積もり |
| 科学技術計算・シミュレーション | アルゴリズム複雑性が計測不能 | 過少見積もり |
| セキュリティ高要件システム | 非機能要件が対象外 | 過少見積もり |
| マイクロサービス・SPA | 「画面」「トランザクション」の境界が曖昧 | 方向不定 |
| 機能変更なしのUI改善 | FP値が0になる | 計測不能 |
| 単純CRUD大量生成(ローコード) | 再利用・自動生成で実工数が減少 | 過大見積もり |
実例に学ぶ失敗パターン
事例: 70人月の赤字(日経XTECH報告)
SIベンダーが携帯電話会社のリベート支払いシステムを再構築しました。FP法で約6,000FP、400人月と算出しましたが、実際は520人月を要し70人月の赤字が発生しました。原因は、ユーザーが認識しない内部ロジック(バッチ処理、中間ファイル生成、データ合算・分割等)がシステム全体の70%以上を占めていたことです。
教訓: FP/SFP法は外部仕様ベースの計測手法です。内部処理が複雑なシステムでは構造的に過少見積もりになります。非比例工数や係数補正で吸収しきれない場合は、ボトムアップ見積もりを主とし、SFPは補助として使ってください。
実施チェックリスト
準備フェーズ
- RDRAモデルのシステム境界レイヤー(BUCシートの画面/イベント/タイマー)が定義されている
- RDRAモデルの情報シート(エンティティ一覧)が定義されている
- EP/LFのカウント基準をチーム内で合意している
- 生産性パラメータを決めている(自社実績 or IPA値)
算出フェーズ
- BUCシートから全ての画面/イベント/タイマーを一覧化した
- 各要素のEP数を確定した(CRUD統合画面等の補正を含む)
- 情報シートから全てのエンティティを一覧化した
- 各エンティティのLF数を確定した(粒度調整を含む)
- SFP = 4.6 × EP + 7.0 × LF を算出した
- 楽観/最頻/悲観の3値で工数を算出した
- 工程別に配分した
- 非比例工数(基盤/移行/運用準備)を加算した
- 管理工数を加算した
- 工期を算出した(JUAS式)
検証フェーズ
- SFP生産性がIPA P25〜P75の範囲内に収まっている
- 工期がJUAS標準工期と大きく乖離していない
- 他の見積もり手法(ボトムアップ等)と突合せ、乖離を分析した
- 不向きなプロジェクトパターンに該当しないことを確認した
- 見積もりをレンジで提示している
実績蓄積フェーズ(PJ完了後)
- 実績工数を記録した
- 実績SFP生産性(= SFP ÷ 実績工数)を算出した
- 自社の生産性データベースを更新した
まとめ
RDRAの要件モデルからSFP法を使うことで、EP/LFという2要素だけで迅速に機能規模を算出し、工数・工期・コストの概算見積もりを導出できます。ただし、SFP法は外部仕様ベースの手法であるため、内部ロジックや非機能要件は別途積算が必要であり、必ずレンジ見積もりと他手法の併用で妥当性を検証してください。
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参考リンク
- 公式ドキュメント・標準
- 統計・調査データ
- 学術論文
- 百科事典
- 解説記事